2024年6月に成立、2026年12月に施行される「こども性暴力防止法(通称:日本版DBS)」。こどもに関わる事業を運営する経営者の皆様にとって、最も気になるのは「自分の教室や施設が義務化の対象なのか?」という点ではないでしょうか。
この制度は、すべての事業者に一律に義務付けられるものではありません。しかし、義務ではないからといって「関係ない」と見過ごすのは危険です。今後、保護者が預け先を選ぶ際の大きな基準となることが予想されるからです。
本記事では、日本版DBSにおける「義務」と「任意(認定)」の境界線、そして認定を受けるために必要な要件について、行政書士の視点からわかりやすく解説します。
あなたの施設はどっち?「義務」となる事業者と「任意」となる事業者
まず、法律によって「性犯罪歴の確認(照会)」が義務付けられる事業者と、任意で手を挙げて「認定」を受ける事業者の違いを整理しましょう。
〇義務化される事業者(特定こども向け施設等)
学校教育法上の施設:幼稚園、小学校、中学校、高校、専修学校など
児童福祉法等の施設: 保育所(認可保育園)、認定こども園、児童養護施設など
その他:特別支援学校、少年院など

〇任意で認定を受ける事業者
インターナショナルスクール(一条校ではないもの)
学習塾、英会話スクール、スポーツクラブ、ピアノ教室や書道教室などの各種おけいこ教室
認可外保育施設(ベビーシッター事業等を含む)
放課後児童健全育成事業(学童保育)

義務化対象の事業者は、法に基づき必ず体制を整える必要があります。
任意で認定を受ける事業者は、法律上明確な定義がされているわけではない民間の事業者です。しかし今回の日本版DBSではこどもを対象とした性犯罪防止の観点から条件を満たす事業者を「民間教育事業」と位置付けて認定対象としています。
以下の①~⑤の要件を満たすものを「民間教育事業」としています。
① 児童等に対して技芸又は知識の教授を行う事業であること
② 当該技芸又は知識を習得するための標準的な修業期間が、6か月以上であること
③ 児童等に対して対面による指導を行うものであること
④ 当該事業を営む者が当該事業を行うために用意する場所(事業所等)において指導を行うものであること
⑤ 当該技芸又は知識の教授を行う者の人数が、政令で定める人数以上であること(「3人以上」となる見込み)
上記①~⑤と重複しますが、以下のこどもとの関係性における「支配性・継続性・閉鎖性」を満たすかどうかもポイントです。
- 支配性(対等ではない関係)
指導者とこどもの間に、教える側・教えられる側という「力関係(権威)」が生じているか。こどもが拒否しにくい状況にあるかが問われます。 - 継続性(繰り返される接触)
一度きりのイベントではなく、週1回、月数回など、一定期間にわたって継続的にこどもと接する事業であるか。 - 閉鎖性(第三者の目が届きにくい)
個室での指導、更衣室、送迎バス内など、周囲から視認しにくい「密室」状態が発生しうるか。
対象になる、ならないの具体的な例はこども家庭庁が発表しているガイドラインに記載があります。
「うちは対象なのか微妙」という方はご参照ください。
こども家庭庁-こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)
一見認定対象に思えるが、対象外の事業形態も
対象外の例
・子育て援助活動支援事業(ファミリー・サポート・センター事業)は依頼会員と提供会員をマッチングするサービスであり、当事者間の契約によりこどもの預かりが行われるものです。こどもに教育、保育等を提供する事業ではないため対象外となります。
・里親については、個人として委託児童の保護者となり、自宅で養育する制度であるので対象外です。里親は厳しい審査を経て子の養育を委託されているため、日本版DBSの対象とするよりもさらに厳格な措置がとられています。
・オンラインのみで授業を行う学習塾は対象となりません。要望に応じて対面で授業を行うことも想定されるのなら対象となる可能性があります。
・児童等の自宅で授業を行う家庭教師は対象外です。保護者の関与、介入が容易なためです。事業者の用意したオフィスやカフェ等児童の自宅以外の場所で教える場合があれば対象となります。
うちは家庭教師だから対象外だ~と判断するのではなく、事業の形態によって運用方法は異なると思いますので、個別に判断する必要があります。
認可外保育施設や習い事教室が「認定」を受けるメリットと準備
「うちは任意なら、面倒な手続きはしたくない」と思われるかもしれません。確かに制度の理解、従業員への周知、理解を得るためのミーティング、運用方法のすりあわせ、情報管理方法の徹底等、時間も費用も手間もかかります。しかし、認定を受けることには経営上の大きなメリットがあります。
保護者からの圧倒的な信頼感
こちらが一番おおきなメリットだと私は考えます。「性犯罪歴を確認済みのスタッフしかいない」という事実は、選ばれる最大の理由になります。
採用のリスクヘッジ
悪意を持った人物が「DBSを導入していない施設」を狙って応募してくるリスクを未然に防げます。前科のある求職者は制度を導入している事業者の求人には応募しませんから。
認定マーク「こまもろう」の使用許可
適切な体制を整えている証として、対外的にアピールが可能になります。認定マークは制服やパンフレット、ウェブサイト、名刺やメールへの掲載、事業所への貼り出し、求人広告での使用が可能です。「こまもろう」はふくろうのかわいいデザインです。このマークを付けられるのは大きなメリットです。
認定をうける準備として、まずは「こどもと接する業務に従事するスタッフ」の範囲を特定することから始めましょう。授業を行う先生は対象者、事務員はどうだろう…事務職であっても、受付や送迎でこどもと密接に関わる場合は対象に含める検討が必要、といった具合です。
制度開始に向けた「守り」と「攻め」の準備を
日本版DBSは、単なる規制ではありません。こどもたちの安全を守ると同時に、誠実に運営している事業者の価値を高めるための制度です。
学校や認可保育所は、法的義務として体制構築が急務。
学習塾や習い事、認可外施設は、信頼の証として「認定」を受ける価値はある。
ガイドラインの詳細や、自社が「支配性・継続性・閉鎖性」の要件にどう合致するかなど、判断に迷う場合は専門家へ相談することをお勧めします。制度が本格始動してから慌てないよう、今から社内規定の整備やスタッフへの周知を進めていきましょう。
当事務所では、日本版DBS導入に向けたコンサルティングや、認定申請のサポートを行っております。不安な点がある方は一度ご相談ください。

