「不適切な行為」とは? 判断基準、早期対応と管理のポイント

2024年6月に成立した「こども性暴力防止法(日本版DBS)」。経営者の皆様が最も気にされているのは「性犯罪歴の確認(照会)」かと思います。しかし、この法律の真の目的は、照会制度の運用だけではなく、施設内での性暴力を未然に防ぐ「安全確保措置」の義務化にあります。

特に現場で判断が分かれるのが、法律には触れないものの、エスカレートすれば重大な事案に繋がりかねない「不適切な行為(グレーゾーン)」への対応です。「これくらいはコミュニケーションの一環だろう」という油断が、取り返しのつかない事態を招くこともあります。本記事では、ガイドラインが示す「不適切な行為」の具体例と、経営者が実施すべき早期把握の仕組みについて、行政書士の視点から解説します。

目次

なぜ「犯罪未満」の行為を放置してはいけないのか? ― 支配・継続・閉鎖の3要素

日本版DBSのガイドラインでは、性暴力に至るまでの前兆として、加害者がこどもの心理を操る「グルーミング(手なずけ)」を強く警戒しています。毎回ブログに登場するのでおなじみとなってきた以下の3要件。これらが重なると、深刻な事案が発生しやすくなると指摘されています。

  1. 支配性: 「先生と生徒」「コーチと選手」という絶対的な上下関係を悪用し、こどもがNOと言えない状況になりやすい。
  2. 継続性: 長期間にわたる関わりの中で、少しずつ「特別感」を演出し、心理的な距離を縮めていく。
  3. 閉鎖性: 他者の目が届かない密室やSNSのDMなど、二人きりの空間を意図的に作り出す。

「犯罪ではないから」と見過ごされている不適切な行為がエスカレートすれば被害につながる恐れがあります。こどもは慕っている大人が、自分に対して性的な悪意を持っているという事に気づけません。気づいたときには既に被害を受けた段階であることも多いです。こども本人が気づくことは困難であるという事を大人が理解し、大人たちが対策を講じなければなりません。

見逃してはいけない不適切な行為と、ボーダーラインを引く難しさ

具体的にどのような行為を制限すべきか、ガイドライン案に挙げられていますので紹介します。

1. 「不適切な行為」の具体例

日常の業務の中で、特に注意すべき具体的な行動は以下の通りです。

  • 私的なコミュニケーション・面会
    • SNSのアカウント交換や私的なやり取り。
    • 休日や放課後に二人きりで会う、保護者の承諾なく自宅へ行く。
    • 不必要に子どもを一人で車に乗せて送迎する。
  • 不適切な撮影・密室
    • 私物スマホでの撮影や、業務外での写真・動画撮影。
    • 用もないのに別室に呼び出すなど、不必要に密室で二人きりになる。
  • 身体接触
    • 不必要に長時間抱きしめる、膝に乗せる、おんぶする(※未就学児の場合は業務として行い得るが、状況判断が必要)。
    • マッサージをしたり、させたりする。特定の児とだけ添い寝をする。
  • 介助・着替え・その他
    • 子どもが一人でできるのに、無理に排せつや入浴の介助に入る。
    • 特定の児に高価な金品をあげる、容姿を過度にほめるなどの「特別扱い」。
    • 従事者が過度に肌を露出する。なぜ先生の露出がだめなの?と思う方もいらっしゃいますよね。大人の露出は子供の警戒感を薄れさせて「性的手なずけ、グルーミング」につながる恐れがあるそうです。

2. 「不適切」かどうかの判断基準

同じ行為でも、状況によって判断が異なります。事業の業態や、こどもの年齢によっても適切か不適切かの判断が変わってきます。

  • 発達段階(年齢): 未就学児と中高生では、必要な身体接触の範囲が異なります。
  • 事業の内容: スポーツ、水泳、ダンス等では、指導上の身体接触があり得ます。柔軟な対応が必要です。
  • 現場の状況: 災害時などの緊急事態と日常では対応が異なります。
  • 悪質性: 「執拗に」行ったり、「保護者の意に反することを認識しながら」行ったりする場合は、「重大な不適切な行為」とみなされます。

現場で取り組むべき予防策

疑念を持たれない、そして子どもを守るための具体的な対応策です。

  • 「閉鎖環境」を作らない: 可能な限り一対一にならない場所で業務を行う。
  • 事前の周知と合意: 身体接触が必要な場合は、あらかじめ保護者に範囲を説明し、本人にも「ここを触るよ」と声をかける。
  • SNSの工夫: 連絡はグループチャットにし、第三者(保護者や他の職員)が確認できるようにする。
  • 「代わりの提案」をする: 子どもが膝に乗ってきたら「隣に座ろうね」と促し、手をつなぐなどして安心感を提供する。
  • 組織での共有: 緊急で送迎が必要になった場合などは、必ず事後に組織内で経過を報告・共有する。

「早期把握と指導」の組織体制

  • 職場での対話: 何が不適切かを日頃からミーティングや研修で話し合い、自由に発言できる雰囲気を作ることが重要です。「あの先生、特定の生徒と仲が良すぎる気がする」といった、同僚からの小さな違和感(ヒヤリハット)を拾い上げる仕組みを作ります。これは犯人探しではなく、組織を守るためのリスクマネジメントです。
  • 過度な萎縮を防ぐ: 初回の軽微な事案については、責めるのではなく「なぜそうなったか」を聴き取り、指導を通じて現場の共通認識を深めるきっかけにします。直ちに大きな不利益を与えるのではなく、「聴き取りと適切な指導」を優先する運用方針を就業規則等に示唆しておくことが、職員の安心感に繋がります。職員が過度に委縮してこどもと接するのが困難になっては元も子もなくなりますからね。
  • 相互理解: 「当施設では私的1対1での連絡を禁止しています」と保護者やこどもに周知することで、職員に対する抑止力と、保護者からの信頼の両方を得ることができます。事業者、従事者、保護者、こどもの全員がルールを理解し、お互いに気を配ることで安全な環境が実現します。

日本版DBSの施行により、こども向け事業者の管理責任はこれまで以上に重くなります。万が一、施設内で事案が発生した際、「不適切な行為を放置していた」という事実は、経営上致命的なダメージとなります。

犯罪が起きてから対処するのではなく、犯罪が起き得ない「透明性の高い環境」を作ること。それが、こどもたちを守り、同時に一生懸命働くスタッフと、あなたの事業を守ることにつながります。具体的な規程作成や、ガイドラインに基づいた体制整備について不安がある場合は、ぜひ専門家へご相談ください。

田畑

各事業者ごとに、事業の形態や規模、こどもの年齢層が違います。どこまでが適切で、どこからを不適切な行為とするかも事業者ごとに違ってきます。

従業員から意見を聞き、話し合いを行い、事業の実態に即してどのような行為を不適切とするかを決める必要があります。それを事業所内で共有し、保護者にも説明することが大切です。
加えて就業規則の整備も必要です。懲戒事由として、「不適切な行為を繰り返し行った場合」「重大な不適切行為があった場合」や「正当な理由なく業務上の指示・命令に従わなかった場合」などを記載しておきましょう。

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